2008年09月03日

国際宇宙ステーションが緊急軌道変更、その驚くべき舞台裏

国際宇宙ステーションが緊急軌道変更、その驚くべき舞台裏
 ロシア連邦宇宙局(Roskosmos)は27日、スペースデブリとの衝突回避のために国際宇宙ステーション(ISS)の緊急に軌道修正作業を実施した。
 この軌道修正作業は、ISSの方向を一旦、進行方向逆に向けて軌道修正用のESAの宇宙船、ATVのロケットエンジンを前方に向けて噴射することで、ISSの速度を減速させて、軌道高度を下げるという非常に特殊な操作が実施された。
 ISSは地球の重力に引き寄せられ、周回するごとに軌道高度を下げているため、わざわざ、軌道高度を下げるという軌道修正は本来は行うべき内容ではないが、ISSは前回、6月にATVのロケットエンジンを噴射することで軌道を上昇させる軌道修正作業を行ったばかりということもあり、想定されている軌道高度の上限に近く、今回は、軌道高度を上昇させることはできなかったことが、軌道高度の低下という非常に特殊な軌道修正作業を行う要因となった。
 それはともかく、ISSとの衝突コースに入ったスペースデブリとは何者なのだろうか?
 このスペースデブリの正体に関してロシア連邦宇宙局も、ESAも一切、明らかにしなかったものの、NASAはこのスペースデブリとはロシアが2006年6月25日に打ち上げた「EORSAT」と呼ばれる軍事偵察衛星の「Cosmos 2421(29247/2006-026A)」であったことを明らかにしている。
 「Cosmos 2421」の打ち上げ時に米国が公開したデータによるとこの衛星の軌道要素は遠地点が430キロ、近地点が409キロ、軌道傾斜角が65度の極軌道衛星となっていた。
 NASAでは「EORSAT」とは海上で航行中の西側の艦船を巡航ミサイルを使って破壊する際に使用するための目標補足用のレーダー衛星だと説明している。
 この衛星、2006年6月25日に打ち上げが実施。2008年2月頃に喪失したものと見られていた。
 NASAのニューズレーター「Orbital Debris Quarterly News(Vol 12, Issue 3)」によると「Cosmos 2421」は2008年3月14日に空中分解を起こし約300個の破片に細分化。その後、4月から6月にかけて更に分解を起こし、最終的には地上から観測可能な5センチ以上のスペースデブリ約500個によって構成された「宇宙開発史上最大規模のデブリ雲」と化してしまったと述べている。
 NASAではこの衛星が空中分解を起こした原因に関しては不明だと述べているが、「EORSAT」はこれまでも度々、同じ状況が発生してきたとも述べている。
 空中分解というのは、具体的には軌道上で爆発が起ったのではないかと思われるところだが、こうした人工衛星が軌道上で爆発を起こすのは一体、どういう原因が考えられるのだろうか?想定可能な原因を列挙すると
①タンクに残った軌道修正用の残存燃料が太陽光の輻射熱により温度上昇を起こして爆発した。
②情報漏えい防止のために自爆させた。
③他国の衛星攻撃兵器による攻撃を受けた。
 などが可能性としては挙げられる。
まず、①の可能性だが、人工衛星は一般的には軌道修正用の残像燃料が尽きたところで、衛星寿命を迎える。NASAの推定ではこの衛星の衛星寿命は約2年。打ち上げが2006年6月25日で2008年2月10日に喪失したとすると、残存燃料は枯渇していた可能性が高い。
 次に②の自爆という可能性だが、これは基本的にはあり得ない。高度400キロ前後の軌道上の人工衛星はスペースシャトルを使えば捕獲することは理論的には可能だが、技術的難易度は非常に高いのが現状。また、このような低軌道の人工衛星の場合は、喪失後は数年で大気圏に再突入してしまうため、わざわざ破壊しなくとも情報漏えいする恐れはないからである。
 次に残ったのが、他国の攻撃を受けたという可能性となるが、衛星攻撃兵器を保有しているのは米国、ロシア、中国の3ヵ国だけしかなく、ロシアの衛星が仮に攻撃を受けては破壊されたとなると、可能性としては米国か中国が破壊したということになるが、他国の衛星に攻撃を行うことは、事実上の宣戦布告とも同意義であり、現実性としては低い。
 では一体なぜ、「Cosmos 2421」は空中分解したのであろうか?
 ここまで書いた時点で続報が寄せられた。過去に起きた「EORSAT」の空中分解はいずれの場合もロシアのトラッキング・ステーションの通信範囲内で起きており、米国の情報筋ではこれらの衛星は意図的に自爆させられたものと見ているという。
 これはまったく不可解な行為だ。前述したように軌道上の人工衛星を捕獲することは事実上不可能であり、わざわざ、使用不可能になった人工衛星を自爆させる必要性などはどこにも存在しないからである。もし、この衛星が本当に自爆したのならば、それは情報漏えい防止のための自爆ではなく、衛星破壊兵器開発の一環として、軌道上の衛星で爆発を起こしたと考えるのが適当なのかもしれない。
 昨年1月には中国が衛星破壊兵器の実験を行ったことで、米中間の関係が急速に悪化するという事態が発生した。「Cosmos 2421」の空中分解に関するこれらの情報はまったくの伝聞にしか過ぎないが、もし、本当にこの衛星が自爆したのだとすると、それは米国にとっては中国の実験以上に大きな脅威であるに違いない。
 ここまで来るとロシアによるISSの軌道変更も自作自演の茶番劇でしかなくなる。
 米国がスペースシャトルの退役時期延長を検討しなければならない本当の理由がここにあるのかもしれない。


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